ICR 侵襲性歯頸部外部吸収

こんにちは、井関です。

おそらく多くの一般の人は歯科医院に一度かかるとそこで全ての治療ができると思っているのではないしょうか?

以前は確かにそういうものでした、しかし、歯科の世界も細分化され、色々と専門分野に特化した治療をする先生が多くなりました。

その為、自分では出来ない治療や得意ではない治療において、その分野に精通している先生に治療をお願いすることが良くあります。

例えば、当院では基本的に矯正をやっていないので、提携している矯正医に矯正をお願いしたり、非常に難しそうな親知らずの抜歯は口腔外科の先生にお願いしたりします。

逆に、当院の院長はインプラントが得意な為、多くの先生からインプラントをしてほしいと患者様を紹介していただいたりしています。

先日、矯正の先生から私の元に抜歯をしないで、根管治療で治してほしいという依頼がきました。
その矯正の先生は宇都宮の先生ですが、わざわざ都内の当医院に依頼をしてきたのです。
これは、相当なプッレッシャーです、そして非常に珍しい症例でした。

今回は、その症例についてお話をしたいと思います。

矯正の先生からは、内部吸収をしているので治してほしいと言われてたのですが、レントゲンを撮って良く見てみるとこれは外部吸収でした。

内部吸収というのは、歯の内部が溶けてしまう病気で虫歯とは違います。
虫歯は虫歯菌によって歯が溶かされていくわけですが、内部吸収は歯の中に何らかの理由で破歯細胞という細胞が発生してそいつが歯の中を溶かしてしまう病気です。

外部吸収も同様に虫歯ではなく、破歯細胞が歯の外側から歯を溶かしていき歯の内部に吸収が侵攻する病気です。

上のレントゲンを見ていただくとわかると思いますが、赤矢印の先(歯の外側から)吸収が開始され、歯の内部に吸収が向かい黄色矢印のところまで歯の内部が溶けてしまっているのです。

この病名は、ICR(Invasive Cervical Resorption)「侵襲性歯頸部外部吸収」(しんしゅうせいしけいぶがいぶきゅうしゅう)といいまして、
治療法は吸収している部分を全て除去し、薬液で消毒しなんらかの材料でその部を封鎖します。

今回歯の上部は健全な部分がたくさん残っているので、上から直径3ミリほどの小さな穴を開けそこから、根の内部の吸収部を除去しようと試みました。

すると吸収部にはただ単に歯が溶けているのではなく、肉芽という歯茎の一部が入り込んでしまっているので、穴を開けた瞬間に血が噴き出してきて、血まみれで中を見るのが困難な状態でした。

そこで肉芽を様々な器具や技で除去をし、出血を止め薬剤で消毒しました。
言葉で書くのは簡単ですが、これには非常に時間がかかりとても困難な治療でした。そこにMTAセメントを用い、根の先端の方(赤矢印)と吸収部(黄色矢印)を同時に埋めました。

黄色矢印の左の方を見ていただくとわかると思いますが、外にはみ出しているのがわかるかと思います。

これはMTAセメントを押し込んで、わざとはみ出しています。

この後歯茎を開いて、はみ出したMTAセメントと除去しきれていない外部吸収部を除去して、グラスアイオノマーというセメントにより同部を埋めました(赤矢印)。
これも言葉にして書くと簡単なのですが、これをピッタリ埋めるのが非常に難しかったです。

珍しい症例なので、頻繁に出会うことはないと思います。
この病気は適切な方法を取らなければ治すことができませんし、正直、最も難しい治療の一つでした。

しかし、もしこのブログを読んでいただいた人の中で、自分も同じようなレントゲン像で治しようがないと言われた方がいたら、
ご連絡いただけたら、お力になれるかと思います。

詰め物をした後に歯がしみるのはなぜ?

こんにちは、ウケデンタルオフィス 歯科医師の井関です。

詰め物をした後に冷たいものがしみた経験はありませんか?あれは何で起こるのでしょう?

いくつか原因が考えられます。


①そもそも虫歯が取りきれていない

②虫歯が大きくて、もとから神経にダメージがあった、もしくはもう神経を抜かないといけない状態だった

③歯を削ったあと、およそ1ヶ月くらいは神経が充血していて、いわゆる知覚過敏になっている

④仮の詰め物は熱の伝導性が良くないのですが、金属の詰め物は熱の伝導性が良いのでしみる

⑤実はちゃんと詰め物がくっついていない


①そもそも虫歯が取りきれていない

まず①は論外と言えると思いますが、実は虫歯を取りきれていなくてしみることはあまりないのです。

えー、虫歯が残っていたら痛いでしょ?と思うかもしれませんが、よほど神経に近くない限り虫歯は痛くないのです。

ただし、数年後にまた痛みが出たり、虫歯が再発というか大きくなっていたり、詰め物が取れたりします。

②虫歯が大きくて、もとから神経にダメージがあった、もしくはもう神経を抜かないといけない状態だった

③歯を削ったあと、およそ1ヶ月くらいは神経が充血していて、いわゆる知覚過敏になっている

②と③は非常にありうることです。

②の状態だと、もう神経の処置をしないといけないわけです。

③は歯を削るという行為が行われれば、神経の充血というのは必ず起こります。

しかし充血状態なら、1ヶ月の間にしみるのはおさまります。

問題なのは、②の状態なのか③の状態なのかは、様子を見なければわからないということなのです。

要は1ヶ月待っていただかないといけないわけです。これが、歯科医師にとっても、患者様にとっても辛いのです。待てば自然に治るかもしれないし、早くに神経の処置をした方が良いのかもしれないし、非常に判断が難しいのです。

なので、良くもう少し様子を見ましょうとなるわけです。

④仮の詰め物は熱の伝導性が良くないのですが、金属の詰め物は熱の伝導性が良いのでしみる

④は金属の詰め物、いわゆる銀歯の時は結構な確率で起きます。
特に詰め物を入れた当日は冷たいものがしみることは多いです。

大抵は数日から1週間程度で慣れるというかおさまります。しかし、②や③の状態なのかもしれないので、ここも判断が難しいところです。

⑤実はちゃんと詰め物がくっついていない

⑤の詰め物がくっついていないってあり得ないでしょ?
だったら外れてくるし、と思われるでしょう。

実は、しみる原因の一番がこれです。

え?と思うかもしれませんが、詰め物の一部が付いていれば結構外れないものです。

そして、付いてない部分というのは目に見えない顕微鏡レベルで言えば隙間が空いてます

そこに細菌が入ってくるとしみるのです。

詰め物を付ける時、セメントやボンディングと言われる接着剤を使ったり、さらに良く付くように歯の表面や詰め物の表面に薬剤を塗り接着力を増したりと工夫をします。

そして、根管治療でも必ず使うラバーダム防湿をします。

ラバーダム防湿をなぜするのかというと、歯に何かを付けるという時に、湿度というのは非常に邪魔な存在なのです。

口の中の湿度って90%を超えるのです。

簡単に言えば、サウナの中で絆創膏を貼るようなもので、くっつきづらいのが容易に想像できますよね。

ラバーダム防湿をすると、50%近くに湿度を抑える事ができるので、接着力を増す事ができます。

セラミックをつける前の状態です。ラバーダム防湿をしています。
一見、キレイに見えると思います。

染め出し液で歯面を染めます。歯磨き指導で衛生士さんに青い液体を歯に塗られ、どこが磨けてないかチェックするやつです。経験のある方もいるかと思います。

染め出し液を洗い流します。するとこのように紫の部分が残ります。
紫の部分は、プラーク(歯磨き指導で言えば磨き残し)が付いているところです。

この様な状態で、詰め物をしたら果たしてくっ付くでしょうか?汚れだらけのところに何かをくっ付けようとしても、付かないのは容易に想像できますよね?

最初の写真では一見キレイに見えますが、これだけ汚れているのです。

紫の部分(プラークの付いている部分)を徹底的に様々な道具や材料を使い落としていきます。するとこのようにきれいになります。
これで、やっと詰め物をする準備ができました。

セラミックの詰め物が入りました。

当院では、たかが一本の歯にセラミックの詰め物をするだけで、これだけ時間と手間をかけています。

ここまですれば、しみる可能性はかなり低くなります。

CRACK(クラック)続き

こんにちは、井関です。

今回は前回に続き、歯の破折(ひび)についてお話ししたいと思います。
前回を読んでないとわからないこともありますので、是非前回を読んでからお読み下さい。

私たちは通常、破折(ひび)CRACK(クラック)と呼びます。

前回のブログでの症例はまだ軽症なクラックの話をしましたが、もう少しクラックが進むとどうなるかという話をしていきます。

いつも、私たち歯科医師はクラックが判明すると凄いがっかりするのです。
なぜならクラックが入った歯はたいていの場合、抜歯する以外ないからです。
7、8年前私はこのクラックの入った歯でもなんとか残そうといろんな方法を用い頑張ったのですが、クラックの入った奥歯は全て4年以内に抜歯になりました。 論文でも奥歯の治療後の5年生存率は0%となってます。
前歯は1歯のみ7年持っている方もいらっしゃいますが、ある特殊な条件下で持っているので例外中の例外と言えるでしょう。

進行したクラックは大きく分けると2つに分かれます。
1つは歯の並びに直角に走るクラック(赤線)
もう1つは歯の並びに平行に走るクラック(黒線)

歯の並びに直角に走るクラック(赤線)の特徴は、ほとんどが神経を抜いてる歯に入ります。
しょっちゅう見かけます。
このクラックは歯冠(歯の頭)から入る場合と歯の根っこの先から入る場合があります。
だいたい半々の割り合いで起こります。
以前にも書いてると思いますが、神経を抜くと歯の内部を削るので、必然的に歯が薄くなります。
なのでクラックが入って歯が割れやすくなります。
臼歯部では神経抜いてない歯と比べ7.4倍歯が割れやすくなります。
何度も書いてますが、神経はなるべく残した方が良いのです。

歯の並びに平行に走るクラック(黒線)の特徴は、ほとんどが神経を抜いてない歯に入ります。
そして必ず歯冠から入ります。
でもこのクラックはあまり見かけません。かなりレアです。
なんの治療もしてなく虫歯も歯周病にもなってない歯にクラックが入ることもあります。
下の写真がまさに真横にクラックが入り真っ二つに割れてしまった歯です。
小さな虫歯を白い詰め物で治してますが、わずかに歯を削った程度です。
こうなってしまうと治療法はありません、残念ながら抜歯する以外ないのです。


では、なぜたいして治療もしていない歯に、歯の並びに平行に走るクラックが起きてしまうのでしょうか?
原因は力です。
噛む力がものすごく強く、夜間に極度の歯ぎしりやくいしばりをしている人に多く見られます。
歯ぎしりや食いしばりを根本的に治す方法は今のところあまりありません。

前回にもお話しした通り、歯科医院で歯ぎしりや食いしばりがひどいと言われた方や、ご自身で自覚のある方は、ナイトガード(夜間に使用するマウスピース)を使用することをお勧めします。

マウスピースも大きく分けると2種類ありまして、柔らかい素材のものと硬い素材のものがあります。
柔らかい素材のものは、歯ぎしりや食いしばりには向いていません。
逆に睡眠中にもっと噛む力を発揮してしまう場合もあります。
柔らかい素材のものは、スポーツ用のものと思ってください。ラグビーやボクシングでしてるあれです。
市販でお湯で温めて歯に合わせるマウスピースがありますが、あれも柔らかいものなので、睡眠中に使用するのはやめた方が良いです。

硬い素材のものは、ナイトガード向きです。
ただし、きちんと歯科医師が調整をしてないとこれも良い結果が得られません。
その人、その人にあった噛み合わせを調整しないといけません。
なので、完全にオーダーメイドなわけです。市販のものとは全く違うものです。
当医院でも多くの方にナイトガードを使用していただいておりますが、今まで使ってたものとは全く違う。
下の顎がスムースに動く。
朝起きた時に肩や首の凝りが無くなった。
ナイトガード無しで寝るなんて心配でできない。
など多くの方に好評をいただいております。

歯ぎしりや食いしばりが気になる方、家族に勧められた方、一度使用してみたい方、是非、当院の歯科医師、衛生士にご相談ください。

Crack(ひび)

こんにちは、井関です。

今回は歯の破折(ひび)についてお話ししたいと思います。

私たちは通常、破折(ひび)CRACK(クラック)と呼びます。

クラックは歯の内部から始まるので、最初は私たち歯科医師が見ても全くわかりません。
クラックが少し進行すると下の写真の様に見えてきます。
よーく見て下さい、ほそーい線が上下に走っているのがわかるかと思います。
「ヘアーラインクラック」と呼ばれ、まさに髪の毛1本分くらいの線がクラックなのです。
これは、年配の方に多く見られます。長い事噛む力に耐えてきた証ですね。
また、噛む力が強かったり歯ぎしりをしている人の奥歯に見られる事が多いです。

しかし、これくらいは、経年的加齢的なものなので、治療する必要はありませんし、症状もまだ何もありません。
するとなれば、ナイトガード(夜間に使用するマウスピース)をしてもらう位です。

その後クラックが進むと、このクラックに沿って細菌が歯の中に侵入してくるので良く隣との歯の間が虫歯になります。
そもそも歯と歯の間は歯磨きがしづらく、虫歯になりやすいわけですが、クラックが入った歯の場合、歯磨きをしっかりとしてても虫歯になってしまうのです。

下の写真の歯は、詰め物が取れ中が虫歯になっていたので、虫歯を取り切った状態です。
見事に真横にクラック(線)が走っている事がわかると思います。
幸いこの歯は、しみる症状はなかったので詰め物をやり直すだけですみました。

しかし、今後このクラックが進んでしまうともしかすると更に治療が必要になるかもしれません。
その可能性については、患者様にお話しはしましたが、どれくらい先に更なる治療が必要かは残念ながら誰にもわかりません。



更にクラックが進むと、神経を抜いてない歯の場合は、圧倒的にしみるという症状を呈する事が多いです。
これが非常に厄介で、クラックがはっきりと見えるようになるまでは知覚過敏と判別がつきません。
(ヘアーラインクラック位ではしみません)
知覚過敏の薬を塗っても一向に治らないのです。
かと言って、何か他に治療法があるのかというと全くないために、様子を見てもらう以外ないのです。

このクラックが進んで、視認できるようになって初めてしみてた原因がクラックだったのかとわかります。
クラックが進むと歯髄に到達し、急激に痛みが出てきたりします。
クラックは細菌の通り道になるので、細菌が歯髄に入ってきてしまうので細菌感染が起こり痛みが出てしまうのです。

この歯がまさにその状態だったのです。
数ヶ月もの間、しみるしみると言われて毎回知覚過敏の薬を塗っていたのですが、全く症状は変わらず何が原因なのかさっぱりわからずそのうち治るんじゃないのかな?と思っていました。
するとある日、歯をよーく見ていたらクラックが入っていたのです。
矢印の先をよく見てください。歯にわずかに線(クラック)が入ってるのがわかるかと思います。


金属を外し歯を削った状態です。
よく見てください、歯の内部にまでクラックが入ってるのがわかるかと思います。


結局、このクラックを全て削っていくと、歯髄(神経)まで到達していて、神経が細菌感染(それによってしみてた)を起こしてしまってるので神経を取らないといけません。
よって根管治療をしました。
当然のことですが、神経を取ってしまえば、知覚がなくなるのでしみなくなるわけですが、患者様は、今まであんなしみて辛かったのに一瞬でしみなくなったと言い、ビックリされてる事が多いです。
その後この患者様は、9年に渡って何の症状もなく過ごしています。

このようにたった1本のクラックでこんなに治療をしないといけなくなります。
しかも、クラックは予想が出来ないので、患者様にもいつまで持ちますよと言えないのが現状です。
唯一、クラックの予防は、先ほど申し上げた通りナイトガード(夜間のマウスピース)を使用する事です。
あとは、極端に硬いものを好んで食べないとか、ビールの栓を歯で開けてしまうとかはやらないで下さい。
ある年配の患者様に聞いたら、笑いながら、確かに昔は歯で栓開けてたなー、ハッハッハッと笑いながら話してましたが、本当に絶対やらない方がいいです。

今回の話は、クラックが入ったけれども、これでも軽症な方なのです。
次回、クラックがもっと進んだらどうなるかの話をしたいと思います。

一年後CT撮ってみたら凄い治ってた!

こんにちは、井関です。

根管治療の世界において3種の神器と言われるものがあります。
マイクロスコープ、ニッケルチタンファイル、そしてCTです。

私の大好きなMTAセメントはここに入らないのが残念でしょうがないです。

ニッケルチタンファイルは使わないことも結構あるので、私の大好きなMTAセメントをここに入れてほしいと私は思ってます。

今回は、この中のCTの症例についてお話しさせていただきます。

患者様は、2日前に右上の歯に激痛があり来院されました。

まずはレントゲン検査を行いました。
以前にも言ったことがあるかもしれませんが、上下共に奥歯は周囲の骨が厚いのでレントゲンではなかなか細かい情報は得られません。
なんとなく矢印の先がモヤモヤして黒っぽい感じはありますが、はっきりとこれは悪い!とは言いづらいレントゲン像です。


そこでCTを撮ってみたところ、上顎右側第一大臼歯は根が3本あるのですが、その全ての根の先に黒い影(根尖病変)が見られました。(赤矢印)
間違いなくここが原因で痛いことがわかりました。


そして、歯の上方部に上顎洞という空間(副鼻腔)が存在するのですが、そこがスリガラス様にグレーになっているのがわかるかと思います。(黄矢印)
これは何かというと、上顎洞まで炎症が波及してることを示します。
上顎洞の上の方に黒い部分(白矢印)がありますが、通常はこのようにCTでは真っ黒に写ります。
CTで黒いということは空気がその部分にあるということです。

治療を始めたところ、一つの根管から大量の膿がダクダク出てきました。
これは、確かに相当痛みがあっただろうなと想像できました。
1回目に根管内を徹底的にきれいにし、膿が止まるまで根管内を洗浄し続けました。
2回目の治療は、2週間後でした。
その時には、痛みは収まってはいましたが、噛むと違和感が残っているとのことでした。
こういう時、最終的な薬(MTAセメント)を詰めますよと言うと、大体患者様は不安になるのですが、噛んだ時の違和感や、歯を叩いた時の響きはMTAセメントを詰めないと消えないこともあるので、2回目に根管充填をMTAセメントで行い終了です。

その後土台(ファイバーポスト)を立てて、型をとりセラミッククラウンを装着して終わりとなりました。
5回の治療で全て終了しました。

その後、経過観察をしていました。
度々レントゲンを取りましたが、やはり奥歯のレントゲンは写りが悪く、治っているのかどうかが判断つきませんでした。

治療前
治療後8ヶ月

どうでしょう?
違いがわかりますか?なんとなくモヤモヤした黒い部分が白っぽくなっているように見えますが、毎日レントゲン見ている人間でもこれは治った!と言い切れません。

じゃあ、CTを撮れば良いじゃないか?と思うかもしれませんが、CTは放射線の被曝量が多い為、頻繁に撮ってはいけないのです。
国際的にも、どうしてもCTを取らないと治療に差し支えるなどの理由がない限り、前回CTを撮ってから、少なくとも1年は空けるべきと言われています。
なので、1年を待って患者様も治っているかどうか確認したいと言われたので、先日CT撮影を行いました。

すると、根の先の黒い影は全て消え、スリガラス様になっていた上顎洞もきれいに治り、真っ黒になったのがわかるかと思います。
正直、1年でここまで完全に治るとは思いませんでした。


患者様も症状はないけど、ちゃんと治ってるか知りたいと言っていたので、きれいに治ってて良かったです。
実は患者様はお医者様でCTを見慣れている方なので、このCTを見た瞬間に、
「すごい!副鼻腔がきれいになってる!」
と驚いていました。 専門用語で言われたのは嬉しかったですね。

治療前と、1年後です。
明らかに違うことがわかるかと思います。

頻繁にCTを取ることは良くないことですが、やはりCTじゃないとわからないこともたくさんあるので、私の治療には欠かすことのできないツールですね。

今回は、1年待って撮ることが出来ましたが、こんなに良い結果が得られて良かったです。

治療前

治療後(1年後)


治療前

治療後(1年後)

またも根管内に器具が折れている!

こんにちは、井関です。

先日、他医院からの紹介で、2本の大臼歯の治療を2回で終えてほしいとの依頼でした。
これはなかなか大変な依頼です。
たいてい1本の大臼歯の治療で、2回から3回、難しいと4回かかることもあります。
それを2本を2回で終えてほしいというのはいつもの倍以上のスピードで治療しないといけないという事です。
しかも、なんと根の中で3本も器具が折れているではありませんか!!

紹介してくれた先生も結構な無茶振りしてくるなと思いましたが、ここは頑張らないといけないところです。

左の歯の折れている器具は短く根の途中にあるので、これは簡単に取れると確信できたのですが、問題は右の歯の2つの器具です。
どちらも根の先端まであり、しかも右側はかなり長いです。
これは相当難しいぞと覚悟していました。
以前にもブログで書いてますが、折れた器具の長さが4,5ミリを超えると統計的に除去の成功率がいきなりガクッと落ちるのです。




あらゆるテクニックを用い、なんとか全て除去しました。
一番長いのはちょうど4,5ミリくらいです。
よくぞ出てきてくれました。
この後はいつも通りMTAセメントで充填しておしまいです。
折れた器具は必ず除去しないといけないわけではありません。
折れた器具自体が悪いことをすることはあまりないのです。
しかし、折れた器具の先に細菌感染が起きていれば、折れた器具を除去しないとその先の細菌を滅することは出来ないので、取らないといけません。
この歯は治療前は歯茎から膿が出てましたが、それもなくなり、先日お会いしたら全然問題ないとおっしゃられたので良かったです。

CTG(Connective Tissue Graft) 歯茎の移植

こんにちは、井関です。

歯周病にかかったりすると歯茎が痩せたりします。
また、噛み合わせの問題や歯ブラシのしすぎでも歯茎が痩せたりします。
そして加齢的にも10年で歯茎は1ミリ下がるとも言われています。

では下がった歯茎は元に戻る、または戻せるのか?というとこれがなかなか難しいのです。
特に全体的に下がった場合は、不可能です。

しかし、こちらのように一箇所だけ下がっている(上の歯なので上がっているとも言えますが) ケースでは元に戻す事が出来る場合があります。

まずは写真をご覧ください。


術前

術後

術後1ヶ月で露出してた根っこが大分隠れました。
根っこがまだ露出しているように見えますが、前後の歯茎の高さと比べてみてください。
ほとんど同じ高さなのがわかるかと思います。
またこれは仮歯なので色も合ってないですし、歯茎近くまで削ってもいません。
最終的な被せ物になるのはもう少し先になりますが、その時には歯茎近くまで削り ほとんど根っこが露出しないようになります。

さて、どうやって歯茎を復活させたでしょうか?

答えは、歯茎を移植したのです。
この手術をCTG(Connective Tissue Graft)と言います。
歯茎を移植???となると思います。
またどこの歯茎を移植したのか?と疑問だと思います。

実は上顎(口蓋)の歯茎を移植したのです。
そんなことして良いのか?痛くないのか?
と思うでしょうが、割と昔からある手法で、痛みもそこまでありません。
1ヶ月もすると取った歯茎の部分もほとんど元通りになります。

この手術は歯茎が下がってるケース全部に出来るわけではありません。
下がり方によっては、出来ない場合もあります。
自分の歯茎を見て下がりが気になるようでしたら、ご相談ください。

巨大な歯茎の膨らみ(サイナストラクト)

こんにちは、井関です。

口の中のできもので一番多いのは口内炎だと思いますが、口内炎に関しては数日で消える事がほとんどです。
以前にもブログで書きましたが、根の病気でサイナストラクトという歯茎にできる膨らみがあります。
(サイナストラクトは以前はフィステルと呼ばれてましたが、今はその様な呼び方はしないようになりました)

サイナストラクトは歯茎や歯の周りの骨の中に溜まった膿が出てくる道で、歯茎が腫れます。
通常、あまり痛みもなく、体調が悪くなると出現し、数日して体調が復調すると消えます。
なので、出たり消えたりします。

だいたい下の写真くらいの大きさの膨らみ(直径3ミリくらい)ができる事が多いです。
この写真は前歯なので、自分で見たり気づいたりする事が多いですが、上の奥歯にできると自分では気付かない事もあります。

もう少し大きくなるとこんな感じです。
これくらいになっても根の治療を1、2回すれば消えて治ってしまいます。

しかし、先日今までに見たことのない大きさのサイナストラクトに出会いました。


これにはびっくりしました、およそ1センチ!
正直、これを通常通り根管治療すれば治るのかな?と考えました。
なので、根の治療と同時に外科的にこの膨らみを切って取ってしまおうかと思ったのですが、 患者様もお時間が無いとのことだったので、1回目の治療は根管治療のみで終えました。


すると一週間後、こんなに膨らみは小さくなりました。
麻酔して外科的に切って取らなくて良かったです。
痛みも出たかもしれないし、傷跡ももしかしたら残ったかもしれないので。
これでもう一度根管治療を行いました。

それから2週間後、ほぼ完全にサイナストラクトは消えました。
あんなおおきな膨らみが、根の中をたった2回治療しただけで消えてしまうんですよ、凄くないですか?

細菌感染が起きているから、ああなったわけで、細菌を除去、死滅させれば治るのです。
決して外科的に何かをしなくても、身体が勝手に治してくれるんですよね。
ちなみに今回の治療では麻酔もしませんでしたし、お薬を飲んでもらう事もなかったです。
人の身体って凄いと改めて実感しました。


発想転換してみた歯根端切除術

こんにちは、井関です。

今回は、前々回と似た様な症例だが、違うアプローチで治療した話しをします。
是非、前々回のブログも一緒に見てください。違いがわかるかと思います。

この歯は以前に通常の根治療では治らず、歯根端切除術という根の先を切る手術をされています。
そして、根の先の方から、アマルガムという金属を詰められています。
これを逆根管充填と言います。

歯根端切除術は、以前は裸眼で治療したましたし、逆根管充填もアマルガムを使っていました。
そして成功率は50%位と言われてました。
しかし、現在はマイクロスコープを使いますし、逆根管充填もMTAセメントを使います。
すると成功率は94%にまで上がりました。

まあそういうことで、以前の歯根端切除術は成功率が低かったわけです。

前々回の症例では、逆根管充填にセメントが充填されていたので、なんとか根管内から除去する 事ができましたが、今回のアマルガムはセメントと違いとても硬いので割る事ができませんので、 歯根端切除術を併用しないと治す事ができないわけです。
(前々回は歯根端切除手術しないで治りました)


この様に以前に歯根端切除手術をして根の先の方からアマルガムが充填されています。
白矢印の先がアマルガムです。


アマルガム以外の根管内の物を全て除去したところです。


ここでアマルガムのところまでいつもの様にMTAセメントを詰めても良いのですが、 そうすると歯根端切除術をする時にはアマルガムのところまで全て削らないといけないわけです。
(黄色のラインまで)
そうすると、根の長さがおよそ3ミリほど短くなってしまいます。
根の長さが短くなれば、歯が動揺してきてしまいます。


そこで、アマルガムを一度外に押し出してしまおう!と考えました。
そうすれば、アマルガムの充填されているところまで、根管内をきれいにできますし、 3ミリ削らなくて済みます。
更にアマルガムを削って取ろうとすると削れた金属のカスがたくさん歯茎の中に残ってしまいます。
削りカスを全て取ることは現実的に不可能なんです。
これは一石二鳥だなと思い、やってみました。


また黄色矢印の先の白いもの、これもアマルガムなのです。
アマルガムを充填した時に溢れてしまったものです。

歯根端切除術と同時に押し出したアマルガムを撤去、取れたのが右の写真です。
黄色矢印の先にあったアマルガムの破片も一緒に撤去しました。


治療前後の写真です。少ししか根が短くなってないのがわかるかと思います。
発想の転換で、より長持ちする治療ができたのではないかと思います。


術後6年

こんにちは、井関です。

今回は、このブログを始めた頃に掲載した患者様が久々に来院されまして、 その時に行った治療がどうなったか報告させていただきます。

6年前にいらした患者様の最初のレントゲンはこうでした。

患者様は、以前に通常の根管治療をしても治らず、更に歯根端切除術という根の先を切る外科処置を 2度しても治らず、歯茎を少し触るとすぐに膿が出てくる状態でした。
白矢印の先の黒い部分は、骨が溶けて膿が溜まっています。
赤矢印の先の白い部分は、逆根管充填材といい根の先の方から詰め物をしています。

このブログを読んでいただいている人ならわかるかもしれませんが、 根管治療は根の中をキレイにして細菌の数を出来る限り減らすことが最も大事なのですが、 この治療で一番難しいと思ったのは、この逆根管充填材を取れるのかということでした。
これを取れなければ、根管内はキレイにならないのですから。

逆根管充填の材料は色々あるのですが、昔はアマルガムという金属を詰めるのが主流でした、 その後セメントで詰めるようになり、現在はMTAセメントで詰めます。
もしこの逆根管充填材が金属のアマルガムだったら、根管内からの除去は不可能でした。
しかし、セメントだったので、根管内からセメントを半分に割り除去できました。
すると、次の週に歯茎から膿が出なくなりました。

すべて除去できました  除去できたセメントです



そして、MTAセメントを充填しました。


ここまでが2014年です。
よろしければ、2014年10月のブログも読んでみてください。

マイクロスコープの可能性 – 逆根管充填材の除去


それから6年の歳月が流れ、今度は他の歯に問題が出て再来院されました。
その時にどうなってるか心配だったので撮らせていただいたのがこのレントゲンです。


便りが無いのが元気な印という言葉もありますが、ずっと心配でした。
しかし、根の先端の黒い影はなくなり、骨が戻ってきています。
ホットしましたし、無事6年間持ってくれたことが嬉しかったです。

白矢印の先には黒い影が残っています。
これは根の先の病気が大きい時になりがちなのですが、 骨が完全に戻り切らず、骨の中に空洞ができてしまうのです。
これは膿では無いので、治す必要はありません。
おそらく何か骨を触らない限りは、一生このままです。
しかし、症状が出ることはありません。


術前、術後です。
かなり治っている事がわかるかと思います。

 治療前(2014年8月)  治療後6年(2020年7月)