ICR 侵襲性歯頸部外部吸収

こんにちは、井関です。

おそらく多くの一般の人は歯科医院に一度かかるとそこで全ての治療ができると思っているのではないしょうか?

以前は確かにそういうものでした、しかし、歯科の世界も細分化され、色々と専門分野に特化した治療をする先生が多くなりました。

その為、自分では出来ない治療や得意ではない治療において、その分野に精通している先生に治療をお願いすることが良くあります。

例えば、当院では基本的に矯正をやっていないので、提携している矯正医に矯正をお願いしたり、非常に難しそうな親知らずの抜歯は口腔外科の先生にお願いしたりします。

逆に、当院の院長はインプラントが得意な為、多くの先生からインプラントをしてほしいと患者様を紹介していただいたりしています。

先日、矯正の先生から私の元に抜歯をしないで、根管治療で治してほしいという依頼がきました。
その矯正の先生は宇都宮の先生ですが、わざわざ都内の当医院に依頼をしてきたのです。
これは、相当なプッレッシャーです、そして非常に珍しい症例でした。

今回は、その症例についてお話をしたいと思います。

矯正の先生からは、内部吸収をしているので治してほしいと言われてたのですが、レントゲンを撮って良く見てみるとこれは外部吸収でした。

内部吸収というのは、歯の内部が溶けてしまう病気で虫歯とは違います。
虫歯は虫歯菌によって歯が溶かされていくわけですが、内部吸収は歯の中に何らかの理由で破歯細胞という細胞が発生してそいつが歯の中を溶かしてしまう病気です。

外部吸収も同様に虫歯ではなく、破歯細胞が歯の外側から歯を溶かしていき歯の内部に吸収が侵攻する病気です。

上のレントゲンを見ていただくとわかると思いますが、赤矢印の先(歯の外側から)吸収が開始され、歯の内部に吸収が向かい黄色矢印のところまで歯の内部が溶けてしまっているのです。

この病名は、ICR(Invasive Cervical Resorption)「侵襲性歯頸部外部吸収」(しんしゅうせいしけいぶがいぶきゅうしゅう)といいまして、
治療法は吸収している部分を全て除去し、薬液で消毒しなんらかの材料でその部を封鎖します。

今回歯の上部は健全な部分がたくさん残っているので、上から直径3ミリほどの小さな穴を開けそこから、根の内部の吸収部を除去しようと試みました。

すると吸収部にはただ単に歯が溶けているのではなく、肉芽という歯茎の一部が入り込んでしまっているので、穴を開けた瞬間に血が噴き出してきて、血まみれで中を見るのが困難な状態でした。

そこで肉芽を様々な器具や技で除去をし、出血を止め薬剤で消毒しました。
言葉で書くのは簡単ですが、これには非常に時間がかかりとても困難な治療でした。そこにMTAセメントを用い、根の先端の方(赤矢印)と吸収部(黄色矢印)を同時に埋めました。

黄色矢印の左の方を見ていただくとわかると思いますが、外にはみ出しているのがわかるかと思います。

これはMTAセメントを押し込んで、わざとはみ出しています。

この後歯茎を開いて、はみ出したMTAセメントと除去しきれていない外部吸収部を除去して、グラスアイオノマーというセメントにより同部を埋めました(赤矢印)。
これも言葉にして書くと簡単なのですが、これをピッタリ埋めるのが非常に難しかったです。

珍しい症例なので、頻繁に出会うことはないと思います。
この病気は適切な方法を取らなければ治すことができませんし、正直、最も難しい治療の一つでした。

しかし、もしこのブログを読んでいただいた人の中で、自分も同じようなレントゲン像で治しようがないと言われた方がいたら、
ご連絡いただけたら、お力になれるかと思います。