歯科ドックの検査内容③噛み合わせ・審美診断
歯科ドックでは噛み合わせの検査・診断も行い、矯正や修復の必要性を判断します。
噛み合わせが悪い状態を不正咬合と言い、そのままにしていると、下記のような様々なリスクがあるからです。
- 特定の歯に強い負荷がかかる
- 負荷がかかることで歯周病が進行しやすくなる
- 負荷がかかることで歯が折れやすくなる
- 歯並びが悪くなる
- 顎が出てくる
- 顔が曲がってしまう
歯の治療は、機能回復だけが目的ではありません。機能性・審美性の両面から考えて、現在の噛み合わせを把握することはとても大切です。
歯列模型の作製
実際に口の中をみる時、顎を外すことはできないので、限られた方向からしか見ることができません。
これに対し、歯型をとって作製した歯列模型は、例えば後ろ(喉のほう)からといったように、いろいろな方向・角度から見ることが可能で、たくさんの情報を与えてくれます。
患者様もご自身のお口の中をあらゆる角度から見ることができますので、口腔内写真などと併せてご覧いただくと、検査結果もより分かりやすくなると思います。
歯列模型からは、上下の噛み合わせの状態、虫歯や不適切修復物の有無、歯の摩耗、歯の位置異常、歯槽骨の吸収・肥大などを確認することができます。
骨隆起の有無
骨隆起とは?
歯肉に、触ると硬いボコッとした出っ張りがあるという人はいませんか?
これは歯を支えている歯槽骨が肥大したもので、骨隆起といいます。
骨隆起は歯に異常な力がかかることによって生じるため、噛み合わせに何らかの異常があると考えられます。骨隆起の有無を診査し、骨隆起がある場合には原因を探ります。
ガイド(誘導)する歯の機能分析
前歯・奥歯のしくみと形状
食事をする際、歯には垂直方向の力と水平方向の力が加わります。
前歯は主に水平方向からの力をコントロールするため、頭(歯冠)が小さく根(歯根)が大きい構造をしています。
反対に、奥歯は主に垂直方向の力を支持するため、歯肉の上に出ている頭(歯冠)が大きく、歯肉の下にある根(歯根)が小さい構造をしています。奥歯はこの構造的に、水平方向(側方)から揺さぶられる力に弱いという特性があります。
ガイド(誘導)する歯による理想的な噛み合わせ
では、上下の歯が噛み合った状態で、横にスライドさせるとどうなるでしょうか。理想的な噛み合わせの場合、犬歯部分が当たり、奥歯は離れていきます。これは、水平方向の力に弱い奥歯を守るために犬歯がガイド(誘導)の役割をしているからです。
このバランスが崩れて、奥歯や前歯に過剰な力が加わると、歯が折れたり歯周病が進行する原因となるため、この前歯と奥歯の噛み合わせのバランスを診査します。
早期接触の有無
早期接触とは
上下の歯を噛み合わせると、本来はどの歯もほぼ同時に接触します。これによって、安定した咀嚼ができるのです。
しかし、噛み合わせに不調和があると、ある特定の歯だけが最初に接触します。この現象を早期接触といいます。
早期接触は顎関節への負担につながる
早期接触があると、知覚を司る脳がそれを障害として認識するために、咀嚼時にその歯だけで当たるのを避けて噛もうとする現象が起こります。これを回避性咀嚼といいます。
回避性咀嚼を続けていると、本来の正常な噛み方と異なるため噛み合わせが不安定になります。ひいては顎関節に負担がかかる要因となります。そのため、早期接触している歯の有無とその場所を診査します。
位置不正歯の有無
位置不正歯とは?
歯の向きや生え方によって、歯列アーチの乱れを引き起こしている歯を指します。
位置不正歯には、転移歯(頬側または舌側にとび出している歯)と捻転歯(歯の向きや傾きが正常ではない歯)があります。
位置不正歯は噛み合わせのバランスに悪影響を与えるだけでなく、ブラッシングがしづらいことから歯垢が残りやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
位置不正歯の有無を診査し、位置不正歯がある場合には矯正や外科的処置の必要性を検討します。
フェースボウによる咬合平面の分析
上顎の歯並びで作られる平面を咬合平面といい、これは通常では顔貌に対して平行な状態を保っています。
しかし何らかの原因で、この咬合平面が顔貌に対して斜めになっていることがあります。
例えば、上顎の前歯数歯にわたる広範囲の被せ物を入れる場合、型を採って作った模型だけをみて被せ物を作ると、模型上では真っ直ぐなラインでも、口の中に入れると顔貌に対して斜めになってしまい、審美的に問題が残ってしまうことがあります。
咬合平面が歪んでいるかどうかをフェースボウによって診査をしておくことで、このエラーを防ぐことができます。
フェイシャルタイプの分析
骨格の形態の違いにより、歯の形態や食物の咬み方や咬む筋力も違ってきます。
顔の骨格は大きく3種類に分類できます。
①顎が角張っているタイプ(ブラキオ)
②顎がほっそりしているタイプ(ドリコ)
③その中間(メソ)
フェイシャルタイプによる噛み方や筋力の違い
下顎の骨が太いブラキオタイプは、咀嚼運動時(食物を噛んで粉砕すること)に働く顎の筋肉も太くて厚いため、噛む力が強い傾向にあります。そのため歯のすり減りも大きく、歯が平坦な形態になります。すると咀嚼運動の効率が悪くなり、咀嚼に強い力が必要になってくるという仕組みです。
下顎の骨が細いドリコタイプは、咀嚼運動時に働く顎の筋肉が細いため、噛む力も弱い傾向にあり、顎関節症になりやすいと言われています。
このように、ファイシャルタイプを分析・把握することは、治療方針を立てる際などに非常に有益です。
アングルタイプの分析
上下の顎の骨格と噛み合わせを3種類に分類します。
上下第一大臼歯が噛み合っている位置を診査します。
アングルタイプの分類方法
・Ⅰ級:上顎の第一大臼歯の手前の咬頭(山になっているところ)が下顎第一大臼歯の中央の裂溝(くぼんでいるところ)に咬み込んでいるもの
・Ⅱ級:下が咬頭一つ分奥に行っている
・Ⅲ級:下が咬頭一つ分手前に来ている
一般に、Ⅱ級は上顎が前に出ていて(上顎前突)、Ⅲ級は下顎が前に出ています(下顎前突)。
これらは見た目だけの問題ではなく、食物の噛み方や歯の形態にも影響します。例えば、Ⅲ級の人は元々下顎が前に出ていることで、下顎を動かせる範囲、つまり食事の時に食物を粉砕したりすりつぶしたりする咀嚼運動を行える範囲が狭い傾向にあります。治療にあたってはアングルタイプによる傾向を前提において治療計画を立てることが必要です。
顎関節診査
顎関節のしくみ
顎関節は、上顎の骨と下顎の骨、および関節円板から成っています。
上顎の骨は頭の骨とつながっており、下顎の骨は独立した骨です。上顎の骨には関節窩というくぼみがあり、ここに下顎の骨の末端である下顎頭という部分がはまりこむ構造になっていますが、この両者の間に関節円板という線維組織が介在しています。
下顎が動いた時に、この関節円板がクッションの役目をすることで、特殊で複雑な運動ができるようになっています。
関節に問題が発生すると「顎関節症」に
何らかの原因で関節に問題が生ずると左右の関節の動きに同調性がなくなり、開閉口時に音が鳴ったり、開口時に痛みや違和感を感じるようになります。この症状が「顎関節症」です。
顎関節症は、原因によって5パターンに分類できますが、中でも関節円板に異常をきたして起こるものが多いとされています。
顎の痛みの有無や、顎を動かすときに音がしないか、口の開けづらさなどを診査し、顎関節症の場合には治療の必要性を検討します。
舌の構造の分析
舌の構造は歯並びや噛み合わせに影響
舌を持ち上げると舌小帯というヒダがあり、舌と口腔底(舌の下、口の中の一番深い部分)に付着しています。
この舌小帯が短かったり舌の位置や形態に異常があると、口腔内で異常な力が働き、舌を動かすとともに舌小帯が引っ張られます。そして、その牽引力によって歯並びが狭くなったり噛み合わせが悪くなる要因になります。
症状の原因を把握するため、舌と舌小帯の状態を診査します。
歯ぎしり・食いしばり(パラファンクション)の有無
歯ぎしり、食いしばりの有無を診査します。
通常、食物を咬む力は5~12kg程度ですが、歯ぎしり・食いしばりの時にかかる力は500kgにも及ぶと言われています。
就寝時に歯ぎしりをすると特異な高音を発することがありますが、これはそれだけ強い力がかかっていることを意味します。 日中の作業中や運動中などにおける食いしばりも同様であり、無意識下で行っていることもあります。
歯ぎしり、食いしばりが引き起こすもの
・歯が折れる
・装着されている補綴物が破損
・歯周病を進行させる
歯ぎしりや食いしばりの直接の原因はまだ明らかになっていませんが、日常のストレスや噛み合わせの異常などがその誘因(きっかけ)になると言われています。
歯ぎしりや食いしばりがある場合は、早期に対策を行うことが、歯や歯周組織の健康を守るために重要です。
咬癖の分析
食事時に片側で偏った噛み方をしていないかを診査します。
食事の際、本来食物は左右の奥歯で咬みますが、主に片側のみで咬んでいる方もいます。
これは何らかの原因で片側の噛み合わせに問題が生じたために、問題がないもう一方の側で咬もうとするからです。
片側だけで噛み続けると…
片側のみで咬むのを続けていると、咀嚼時に働く筋肉や顎関節に負担がかかり、痛みや違和感を生じる要因となります。
体癖の分析
頬杖、寝るときの姿勢などについて診査します。
例えば日中机に向かっている時に頬杖をついたり、就寝時に横を向いて寝ていたりすると、習慣的に下顎に大きな負荷がかかり続けていることになります。
その結果、顎関節に負荷がかかって異常をきたしたり、歯を移動させる要因になります。